連載(2) Digital LIVE Contents-Infrastructure-Literacy

電子ジャーナル元年

前附属図書館長 富岡秀雄

 年頭から、附属図書館に多量の電子ジャーナルが導入されることになった。内訳は、Academic Press社(IDEAL)176タイトル、Springer Verlag社(LINK)396タイトル、それにElsevier Science社(ScienceDirect)約1250タイトルである。これだけで総タイトル数は約1,800になる(いずれも契約ベース)。これに、冊子体の付録として利用できるものや全くフリーで提供される電子ジャーナルなどをあわせるとおよそ2,000タイトルとなり、アクセスできる電子ジャーナルは一気に約10倍となる。また、現在冊子体として契約している外国雑誌は約1,200タイトルなので、本学で読める外国雑誌は両者の重複分を差し引いても総計2,900タイトルとなり、一挙に倍増したことになる。本学附属図書館で、過去にこれほど多くの外国雑誌を購読したことはない。

電子ジャーナルアクセスサービスのページ

電子ジャーナルアクセスサービスのページ

 また、これに加えて欧文引用文献データベース“Web of Science(WoS)”も導入された。自然科学系の世界の主要な学術雑誌約5,700タイトルをカバーしており、本学で購入している自然科学系雑誌(冊子体)の85%弱が採録対象となっている。そしてWoSから今回導入した電子ジャーナル全てに直接リンク出来ることになる。つまり、三重大学で購読している自然科学系の欧文学術雑誌の85%弱については、論文単位で著者・論文名・キーワードなどで検索でき、その論文の引用関係についても表示・参照でき、アブストラクトや原文献を画面上に表示でき、必要に応じてダウンロードでき、それを編集・加工して自身の研究・調査・学習に役立てることができるのである。

 まさしく鬼( EJ )に金棒 ( WoS )である。

Web of Scienceの検索画面

Web of Scienceの検索画面

 顧みるに、三重大学の附属図書館は研究用図書館としては大変心許ない状況である。色々な原因はあろうが、先ず教員(極論すれば大学)が余り図書館を育てようとする気が無かったことが大きいのではないだろうか。私自身、約30年前に赴任した時に、図書館の蔵書の粗末さに非常に落胆したことを鮮明に覚えている。研究者の生命線である学術情報を得るためには、時間を見つけて他大学へ出かけるか、友人に無理を言ってコピーを送って貰うしかなかった。図書館と言うものは自分の知りたい情報が十分に集まっていると、定期的に利用するが、そうでないと図書館には頼らない自分なりの情報収集手段を確立せざるを得ない。そして、その情報収集手段が確立すると、段々と図書館から足が遠のき、図書館への期待は薄くなる。同じような経験と感じをお持ちの方は少なくないのではないかと拝察する。

 これは、本学の学生にとっては悲劇である。教員の多くは学術情報の恵まれた環境で育ってきたので、少なくともその重要性は認識しているものと思う。しかし、三重大学で教育を受ける学生はどうなるのであろうか。いかに学術情報が重要であるか、いかにそれを迅速、正確に収集することが大切かを我々教員が説いても、身近に毎日利用出来る学術情報がなければ、学生諸君は決してその重要性を理解出来ないであろう。思えば30年前は農、教、工の3学部しかなく、又大学院すら無かった。まさしく教育主体の大学であった。今や5学部を擁し、その全てが大学院を持ち、博士後期課程の学生を毎年約100人も輩出する総合研究大学に大きく成長・変貌したのである。ところが、このような大きな変化は各学部の段階で止まっており、研究をも支援するという役割を担うべき図書館は蚊帳の外におかれていたのでは無いだろうか。

 同じ授業料を払っても、高等教育を受ける基本的な環境に差があることは、(国の施策であるので)どうしようも出来ない面はある。しかし、その差を埋める努力は、個々の大学で最大限するべきである。総合研究大学に相応しい学術雑誌の充実は、最重要事項の一つである。遅すぎた感がなきにしもあらずだが、今回の電子ジャーナルの導入は、本学附属図書館のこのような状況を、完全とは言えないまでも、かなり改善することになろう。電子ジャーナルとWoSを共に備えた大学図書館は、国立大学の中でも未だ少数である。海外の先進大学に比べれば、未だ大変貧しい状況であることには変わりないが、少なくとも、同じ国立大学の中ではかなり恵まれた環境が整ったと言うことは出来よう。これから、我々がどのように活用し、素晴らしい成果をあげていくかである。どのように学生諸君の教育にも役立てて、総合研究大学に相応しい人材を育てていくかである。

 この点に関して少し気になることがある。それは、附属図書館の電子図書館専門委員会で、今回の電子ジャーナルの導入を積極的に歓迎する声が余りなかったことである。最近、ある大学で電子ジャーナルに対するアンケートを取ったところ、全教員の2/3が導入に賛成し、教員一人当たり1万円を拠出したそうである。このような差はどこから生じるのであろうか。貧弱な学術雑誌の環境に長いことおかれた結果、情報収集する意欲さえ失ってしまったのであろうか、図書館にそのようなことを期待する気持ちが無くなったのであろうか。

 どのような研究分野でも、新しい研究を進めるにあたって、過去の研究の収集は不可欠である。そして、それは正確かつ迅速であるべきである。今回の電子ジャーナルとWoSの導入は、この理想に近づくものであろう。積極的な活用を期待したい。

(とみおか・ひでお)

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