連載(6) Digital LIVE Contents-Infrastructure-Literacy

私が図書館へ通わなくなったわけ

生物資源学部  舩原 大輔


 近頃めっきり図書館へ足を運ばなくなった。

 三重大学に赴任してきて、初めて論文を探しに図書館へ行ったとき、私は愕然とした。あまりにも文献がなかった。学生時代は国内随一の蔵書で知られる図書館のある大学で過ごした。欲しい文献はほぼ全て手に入った。何不自由のない生活だった。なんと幸せだったことか。

 私の研究分野は競争が激しく、実験技術は日進月歩であるので、最新の論文をいち早く読んで世界の動向を知らなければならない。そのような中で、欲しい論文を読みたいときに読めないのは致命的である。文献を検索し、これだと思った論文を載せた雑誌が図書館にないと分かったとき、それは悲しい。図書館に文献を取り寄せてもらえばよいのだが、たいていの場合、手元に届く頃には熱意は冷めているものである。そうして知らず知らずのうちに論文から遠ざかっていき、時流から取り残されるようになる。ゆゆしき事態である。

 しかし、時代は味方していた。ずいぶん前から有名な雑誌が論文を電子ファイルで配信することを開始し、インターネット経由で自分のパソコンにファイルをダウンロードすることで、欲しい論文を欲しいときに手に入れられるようになった。いわゆる電子ジャーナルである。さらに最近ではマイナーな雑誌も続々と電子ジャーナル化している。どうやらそうしないと雑誌も生き残れない時代になっているようである。ほとんどの場合、論文はPDF形式のファイルで提供されるので、パソコンからプリントアウトすれば印刷物と同等の品質のものを手にすることができ、これは特に写真やカラーを用いた図を含む場合、たいへん有効である。近頃は、論文投稿もネット経由で行うことが多くなり、また別刷を著者に請求する必要もなくなった。研究者にとっては全く幸せな時代が到来したものである。インターネット万歳。

 中央と地方では、情報量と情報伝達速度があまりにも違うが、電子ジャーナルの普及によって、研究者は少なくとも情報に関しては同じ土俵にたつことができるようになった。最先端の研究を進めていく者にとって、最新の情報は何よりも重要であるから、この恩恵は計り知れない。もっとも、研究設備などの物理的な格差は依然として大きいけれど。まあ、それはアイデアでカバーすることにしよう。

 三重大学附属図書館では、電子ジャーナルに力を入れているようで、その契約雑誌数は年を追うごとに充実し、読みたい論文はたいてい手に入るようになった。私の場合、図書館は主に論文を検索する場であったので、近頃では論文の入手のために図書館へ行くことがほとんどなくなった。ただ、その雑誌自体は電子ジャーナルとしてずいぶん前から存在しているのに、論文をダウンロードしようとすると、どうやら図書館が契約していない年代のもののようで、結局昔ながらの方法で論文をとってくるしかない場合がわりとあり、それが残念である。さかのぼって購読できるようにはならないものだろうか。

 いずれにせよ、図書館が電子ジャーナルに力を入れていこうとする方向性には、大賛成である。印刷された実物がないと不安に感じる人もいるかもしれないが、その収集はどこかの大きな大学の附属図書館に任せることにして、三重大学附属図書館のような小さなところは電子ジャーナルを充実させる方が、三重大学の研究者にとっても有益なのではないだろうか。これからも、どんどん契約雑誌数を増やしていってもらって、ますます図書館から足が遠のくようにしてもらいたい。

 (ふなばら・だいすけ)

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