ドイツの大学図書館

人文学部 教授 大河内朋子



図書館入口。ドアに描かれた"UB"という文字は、「大学図書館」という意味。


 昨年度一年間、ドイツ・バイエルン州にあるエアランゲン・ニュルンベルク大学に滞在した。滞在中は、文献収集のために、足繁く附属図書館に通った。その経験を元に、ドイツの大学図書館事情について報告したい。

 まず利用者であるが、私のように「客員」身分であっても、正規の学生・教職員と同じ利用者証を入手することができた。私の場合には、旅券と住民登録証明書を貸出窓口で提示すると、すぐにその場で、利用者カードと暗証番号を発行してもらったのであり、大学に正規に所属していないからと言って、利用制限を被ることもなかった。つまり、大学図書館は、大学関係者だけのための特権的な施設ではなく、一般市民も同一条件で利用可能な「開かれた」施設であり、公立図書館の一つとして機能していると考えた方が良い。市内には、他に小さな市立図書館があるだけなので、市民にとっても、大学図書館の利用価値は高いのではなかろうか。実際、一般市民の利用者数も増加しているのではないかと思える。と言うのは、年輩者だけを対象にした図書館利用のオリエンテーションが、何度か開催されていたからである。


図書館二階。左手のカウンターはインフォメーション、右手に貸出・返却窓口がある。


 大学図書館と公立図書館の連携は、遠隔貸借制度を利用した場合にも気づくことができる。私が集めていた文学作品には、文学史の片隅にでてくるような、無名の作家のものが多く、しかも19世紀後半から第二次大戦中にかけてと、成立年代もやや古かったので、エアランゲン大学が所蔵していないケースが多かった。幸い、遠隔貸借制度が整備されていたので、ベルリン等の大規模な図書館に出かけなくて済んだ。遠隔貸借の申し込み手続きは、図書館のホームページから簡単に行うことができる。申し込みの後、早ければ数週間で文献が届くが、私の場合には通常数ヶ月であり、驚くべきことに一年以上たった今、ようやく届けられたものもある。ところで、届いた文献の所蔵先を見ると、大学図書館だけではなく、国公立図書館の印が押してある。ドイツ各地の州立図書館や市立図書館の名が読みとれる。大学図書館と公立図書館が、一つのネットワークを形成しているのである。

 もう一つ、利用者にとって大変便利だと思ったのは、遠隔貸借に限らず、文献の貸出手続きや貸出期限の延長等が、学内LANからのみならず、自宅にあるパソコンからも至極簡単に行えることである。図書館のホームページには、利用者ごとの「口座」も用意されていて、パスワードで「口座」を開けば、貸出中の図書・貸出期限・予約図書・延滞図書等の状況を、いつでもどこからでも、確認できる。遠隔貸借を申し込んだ図書は、到着時にメール連絡を受けるが、それ以外に各自の「口座」でも再確認できる。

 エアランゲン大学図書館のユーザーフレンドリーな点を幾つか挙げたが、もちろん、各講座等に分置された図書の利用勝手の悪さなど、問題点は残っている。しかし、幾つかの点は、三重大学図書館のサービス向上の一環として、今後ぜひとも実現していただきたいと思い、報告した次第です。

(おおこうち・ともこ)


目次に戻る