「学塔」No. 95(1996. 12. 2 発行) |
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第95回日本皮膚科学会総会が1996年6月に札幌で開催された。此の時にイブニングレクチャーに「ゆるやかな絆」と題してノーベル賞受賞作家の大江健三郎先生による講演が行われました。長男の作曲家、大江光氏を中心としての家族の生活を語られた内容でした。
丁度「快復する家族」として大江光氏と共に生きる家族の交遊の本の続編として4月に同名の本が出版されており、これを丁度読んでいる最中の出来事でしたのでより鮮明な印象を受けました。大江氏の生活は外国での講演、朗読、客員教授として長期に渡る講義、対外的な日本文壇の仕事、さらに広島の原爆に対する活動など多忙な毎日の生活でしょうけれども、講演から受ける印象は朴訥とし、しかし日常の生活はスマートに、シャイに送って居られるようでした。
講演の前日が私にとって忘れえぬ日となりました。新聞にも書かれていたので知っておられる方があるかと思いますが、他の都市での講演が予定されていたにもかかわらず、スケジュールの間違いから、直接北欧の講演旅行から札幌に入られたことです。そのため予定外のことでしたが、私たちの夕食会に飛び入りで参加されたことでした。この会で外国からの皮膚科医と共に談笑されていましたが、翌日の講演では早速日本の医学水準の高さについて理解したことを述べておられました。又皮膚病の病名について触れられましたが、日本語、ラテン語共に難解で、その解釈のため自宅に電話され、辞書で使用された言葉を確かめ、どうも意味が重なっている場合があるのではないかと述べられました。いつも言葉を選んで使用する重要性と手元で絶えず、文章を構成する時に辞書を使っておられることがわかりました。即ちその小説は難解な点も多くあり、クリスタルガラスを思わせる硬質と表現したらよいのでしょうが、流れるような文体ではありません。
さてここで本題に入るのですが、タ食会の大江先生のテーブルが私の席の隣りでしたので、外国の皮膚科医のゲストと対話を楽しんでおられる中で、作家の署名について少しお話をさせていただくことが出来ました。後で触れますが、かつて私は講談社から刊行されていた現代の文学・28大江健三郎(昭和46年9月刊)に大江先生が署名されたいわゆる署名本を持っていました。丁度私とほぼ同世代の生活を送ってこられたから、大学の講義はひたすらノートを取る状態であり、ノートに書く字がそのまま署名になったと思われる字でした。さんずいの点も跳ねない硬い四角い字です。そうして変わらず原稿を大学時代と同じように書いてこられたのでないかと考えました。字は性格を示すと言いますが、硬い、点も跳ねない字でしたと話をいたしました。性格も硬いですよ、それでは現在の字で署名しましょうと言われ、名刺に大江健三郎とペンで書いていただきました。考えますとこの間25年の歳月が流れています。横書きですから少し右上がりの字となりきちんとペンで書かれ力強い字でした。
一方我々でも論文が出版されると別冊を差し上げるべき人に謹呈と書き署名を入れて郵送したり、手渡しています。小説家の場合も同様の事が行われていて贈るべき人の名前が書かれ署名がされている場合は献呈署名として収集家の興味の対象になります。またサイン会の時に書かれたり、限定本として少数の本を出版する時も毛筆、万年筆、サインペンで署名があります。かつて私は大阪のかっぱ横丁の古書店で数冊の作家の署名を見てから折に触れ、神保町の古書店街で作家の署名の入った本を探したり、伝を求めて本を届け、署名をしていただいたりして、150名を超える作家の署名を集めて来ました。此の中には医学部出身の作家も勿論含まれます。直木賞の受賞作品「光と影」の渡辺淳一氏の場合は楷書でしっかりした字で書かれています。しかし多くの作品を書く様になってから最近の「化身」などでは歌手のサインと変わらず崩れた署名となってきています。安部公房、加賀乙彦、北杜夫、帚木蓬生氏は硬く、川田弥一郎、篠田達明氏は比較的柔らかい現代的な署名であり、南木佳士氏は少し右下がりの四角い字で学生の字を思わせる署名で書いておられ、カルテの字と同様に見えます。明治時代の文豪と呼ばれる人々は、毛筆ですので美しい字で、やはり医師であった森鴎外も目録で見ると例外ではありません。我々は日常他の人達に比べて患者の病歴を記するカルテを作りますので、字を書くことは多いと思います。かつては先に述べた様に学生時代にノートをとることが一般的でしたので、急いで記録することで、他の人から見れば、読みにくい字となっています。その点から見ると、医師あるいは東大の同級生の先生に聞いても安部公房氏は医師免許はどうか不明ですが、いずれも四角い力を込めて線は一直線で書いた大きい字です。原稿に書く字は想像できません。
時々雑誌に作家の原稿用紙の字が出され、この作家はだれかと言うクイズがあります。私も平岩弓枝氏の本をいただいたことがあります。閑話休題これらの字は比較的きれいな字が多く、角のとれたマス目を埋める様な形を示しています。しかし作家の字が一般的に上手な字かと云うと右肩下がりの字や、女性の若い作家では丸文字やイラスト入りもあります。しかし瀬戸内晴美女史(寂聴)の毛筆、ペン字はともにきれいです。男性では松本清張氏の毛筆も良く、ペン字では三島由紀夫氏の字は格調高い字です。
ちなみに先日医学部開校50周年の記念講演に来津された司馬遼太郎氏の署名は人格の現われた春風駘蕩の言葉が似合います。しかしワープロの時代とともに書きなぐりの字を清書することが無く直接文字を入力することになると、将来は名前だけを書く練習を小学校でさせる時代が来るかもしれません。さらに年齢が上がるにつれて活字社会から離れていきます。コンビニエンスストアーのシャッターの上がるのを待って漫画週刊誌を買う若者を見るときに活字がキーを押すことで表現されるとなれば、文字の美しさはもはや美術の対象の一つとなるように考えます。機器の発達が文字文化を破壊する事を恐れています。
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私の研究室では、24時間生活施設の計画研究をテーマの一つにしている。24時間生活施設とは住宅、病院、老人ホーム、老人保健施設、ケアハウスなどである。
中でも、高齢者生活施設が特に話題になっている。施設生活やケアの十分でない在宅生活が、寝たきり老人を作るという議論があるし、北欧では寝たきり老人はいないという報告もある。ケアのために適切なマンパワーが必要なことは言うまでもないが、環境が寝たきり老人を作る側面もあると考えられる。介護保険も具体化しつつあるが、住宅改良や施設環境がどこまで保険で保障されるのか、政策課題ともなっている。
日本でもこれからの老人ホーム(正確には特別養護老人ホームや養護老人ホームなど)は個室にしたいという議論があり、幾つかの事例もできてきている。しかし、すべての施設の個室化が可能なのだろうか。プライバシィは大切であるが、これはプライバシィと対極の社会性のある環境があって始めて成立する概念である。個室だけできれば良いというわけではない。我々の調査によれば、施設の生活者も生活意欲ある人は他者との交わりを求めて、あるいは精神生活の充足を求めてベッドから離れ独自の生活スタイルを持っている。寝たきりに近い人でも便所の往復に会話する相手を求めて他の病室を覗いたりしている。こうした行為を通して生活意欲が高まるし、さらに自立意欲の高まる環境を提供することが必要であろう。個人的生活と社会的生活のバランスこそが生活にリズムと健全な生活をもたらすと考えられる。
結論を急ぐと、フィジカルな環境としては相対的に個人的拠点と社会への窓口になる拠点の最低2つ以上の生活拠点を持つことが、生活のリズムと健全な生活秩序をつくる必要条件ではないだろうか。病室周りの極めて限られた空間でも、よく観察するとベッドの両サイドを外向きの「表」とポータブルトイレや洗濯物をおく「裏」に使い分け、2拠点化し、より安定した秩序ある空間を作ろうとしているように見える。
一般に家庭と職場、家庭と学校の二つの拠点をうまく使い分けている。社会学ではサークル活動など第三の拠点づくりということも言われているが、まず二つ目の拠点をつくれることが先であろう。特にここで取り上げたいのは、施設の中で、住宅の中で、学校の中での拠点・居場所の問題である。
住宅の中の子ども部屋、老人室、病院の病室、研修施設の宿泊室という具合に一つ目の拠点を計画することは当然で、より豊かな施設に際して、一つ目の拠点の規模や設備の性能を高めることばかりに精力を注いできた。住宅における居間、小学校のオープンスペース、病院のデイスペース、小児病院のプレイルームあるいは学習室という空間が二つ目の拠点に相当するが、ただそうしたスペースがあればよいのではなく、居間は子どもにとってもう一つの拠点・居場所となる性能・雰囲気が必要である。当然高齢者が必要としているもう一つの拠点の内容・雰囲気とは異なる。一つ目と二つ目の拠点のバランスある設置がこれからの課題であることを強調したい。
住宅なり、病院・老人ホームなりを計画設計するにあたり、こうした視点からの課題を一つずつ解き明かしていきたい。三重大学の学生にとってキャンパス・図書館は第二の居場所になっているだろうかという問題提起でもある。工学部では今、感性理工学専攻の増設を計画しているが、感性的認識のメカニズムやそのメカニズムをモディファィした分析法・操作法だけでなく、工学としていかなる環境を構築すベきかという問にアクセスしたいし、心理学や教育学あるいは生理学の分野と共同研究できる環境をつくりたいとも考えている。
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UnCover(アンカバー)は、UnCover社(昨年の10月に、DIALOG、DataStar等を提供しているナイトリッダー・インフォメーション社の100%子会社となったが、以前の所有者の一つCARL Corporationと同様、社名は変わっていない。)が提供するオンライン文献検索・配送サービスですが、検索だけでしたら無料です。図書館のホームページからもアクセスできますですので、是非お試し下さい。
収録対象誌は英文の雑誌が主体ですが、地理学評論、国語学、地質学雑誌、史学雑誌等の日本語の雑誌も含まれていて、総数17,000タイトルになります。雑誌目録Ulrichの収録誌数が、165,000タイトルですから、世界の雑誌のほぼ10%が検索できることになります。三重大学の刊行誌では、医学部のMie Medical Journalが収録されています。収録年代は1989年以降現在までで、文献総数は800万件を越えます。分野別の内訳は、自然科学51%、社会科学40%、人文科学9%となっています。雑誌が発行されてからデータベースに採録されるまでのタイムラグもかなり短く、なかには店頭に並ぶのと同時でタイムラグ0というのもあるようです。
今年の4月からWeb版でも利用できるようになり、Telnet版(IPアドレス:192.54.81.18)の時のようなエコーバックが遅いためのイライラから解放されたこと(ただし、入力してからレスポンスが返ってくるまでは従来通り)や、リンクをたどるだけで詳細情報を表示できることなど、使い勝手は格段によくなっています。
接続の仕方
Web版のURLは http://www.carl.org/uncover.htmlですが、附属図書館のホームページの最下段からもリンクが張ってありますので、下線部をクリックすると、図1のCARLのホームページにつながります。
附属図書館のホームページからですと、図2のUnCoverの検索画面になるまでには、
図2.
検索の仕方
図2の検索画面において、1のデータベース選択は左のUnCoverですから、そのままにしておいて、3の検索タイプ(一般的な検索でしたら、Keyword検索で十分です)を選んでから2の窓に検索語を入力してEnterボタンをクリックします。
検索語の入カの仕方
Keyword検索は、雑誌のタイトル、論文の論題あるいはSummary(すべての論文に要約が付与されているわけではありません)の中に現れる単語及び主題標目やディスクリプタ中の単語から検索しますので、思いつく言葉(もちろん英語で)を入力するのが、一番単純な検索の仕方です。複雑な検索としては、ブール代数を使ったAND,OR,AND NOT,BUT NOTや前方一致検索(*を使用)等があります。
使用例:
図4.
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附属図書館では、本年9月より研究用図書貸出をコンピュータで行っております。このことにより、今まで一冊ごとに記入していただいておりました「研究用図書借受証」が不要になりました。
詳しくは、資料運用係(内線2207)まで。
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田口 寛(分担執筆)生物資源学部教授
田中 和博(分担執筆)生物資源学部助教授
谷山 鉄郎(分担執筆)生物資源学部教授
松浦 誠(分担執筆)生物資源学部教授
松坂 清俊(監修)教育学部教授
目崎 茂和(分担執筆)人文学部教授
焼田 党(共編著)人文学部教授
山岡 悦郎(著)人文学部教授
渡邊 定元(著)生物資源学部教授
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