宇宙の物質循環・地球上の物質循環

生物資源学部  小 畑 仁

 ビッグバン宇宙の誕生から150億年の間、宇宙は進化してきた。その中で宇宙論の教える星の一生は、壮大すぎる現象であるけれども、全体として物質の循環が形成されていることを示している。すなわち、星間ガスの渦は密度の高い部分をうみやがて星の誕生に至る。その後星は進化(老化)し燃え尽きる。その際、星の質量が小さいと膨張し大きいと収縮する。膨張した星は爆発しガスとして宇宙に拡散し、また上記の過程をへて星の生成に至る。収縮した星はこの循環系から離れていく。銀河誕生後100億年近くの間この物質循環はくり返され、その中で太陽が作られ惑星地球も生まれた。
 地球上での生命の誕生は今から35億年程前と考えられている。生命は、実に宇宙誕生から今日に至る時間(150億年)に匹敵する長い間生きながらえてきた事になる。その間に生物は原核生物から真核生物へ、そして多細胞生物へと順次進化してきた。4億年前には水の中から陸上への進出をはたし、今日の大繁栄をとげた。その進化は億年単位の極めてゆっくりとしたものであるが、しかし確実に地球環境自体に大きな変化をもたらした。すなわち、大気中に酸素を増加させ、このような状況に合わせて今度は生物がエネルギー獲得方式を変え、効率の良い好気的呼吸を手に入れたのである。このような極めてゆっくりとした変化の上に現在の我々がある。その中で生物は誕生以来、物質を取り込み代謝し排せつする栄養現象を営んできた。また生物自体も死ぬと元素のレベルまで分解され、まぎれもなく地球上における物質循環系の一部を構成している。
 人の最近の行動は、特に産業革命以降のエネルギー・資源の消費の著しい拡大は、自然が持つ変化のスピードをはるかに追い越してしまった。それが地球の許容限度を超してしまったため、20世紀の半ばを過ぎた頃からその行き着く先が地下資源の枯渇であることが見えてきたし、また生産物・副産物が長い歴史の上に成り立っている生命に激しいストレスを与えつつあることが分かってきた。地球上で太陽の光をエネルギー源として循環的に生産される生物資源こそが、人の持続的な活動を支え得る唯一のエネルギーであり、資源であることを改めて強調せねばなるまい。人は長い間そうすることによって生きながらえてきたのである。しかし一方で人は、化石燃料の大量消費・大量廃棄によって手に入れた便利さを忘れ去ることができないでいる。温室効果ガス排出量削減の数値目標を決めた京都議定書の発効がなかなか進まないように、多少とも伴う痛みをがまんできないでいる。今世紀末の気温上昇予測が1.4〜5.8℃(約1万年前の氷河期と現在の平均気温差が5℃程度)である事を考えると、状況は待ったなしの段階にきている。
 循環型社会を、人の叡智をもって構築せねばならない時にきている。

(おばた・ひとし)
【紹介図書】

宇宙はどこまでわかっているか/池内 了(NHKライブラリー)

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