自分らしさは自分で作る・大学図書館活用法

教育学部  蟹江幸博

 最近の学生は本を読まないという話をよく耳にします。僕が知っている出版社の人も本が売れなくなったと言っています。しかし大きな本屋に出かけてみれば、目を見張るほど多種多様な本が並んでいて、ありとあらゆる本があるように見えます。ベストセラーと言われる本は山  のように積まれています。
 でも、つい買い逃がしたら、後になって読みたいと思っても、どこの本屋にも置いてなく、出版社に注文を出しても、絶版や品切れになっていることが少なくありません。この場合、その本を読むのは諦めないといけないでしょうか。いや、今は土地土地の公共図書館が充実していて、行けば本屋で買いそこねた本も大抵見つかります。その図書館になくとも、相互貸借といって、近くの公共図書館から借りてくれます。
 だからほとんどの本は、探せば読むことができるようです。つまり、読みたければ大抵の本は読むことができるのです。ということは、読むことができるのに読んでいないということでしょうか。学生が本を読まないという嘆きはあります。本当に本というものを読んでいないのでしょうか。それとも、教官の側で読んで欲しいと思っている本を読んでいないということでしょうか。多分、どちらも少しずつ正しいのでしょう。
 教官の嘆きには、もう一つ、学生がモノを考えないということがあります。これも、学生諸君は考えているのだが、その考える仕方というものが、教官の思っている「考える」とは違うということでしょうか。
 このことは学生諸君の個人的な責任に帰すことができない点もあると思っています。小学校のうちは、自分でものを考えろ、子供の自由な発想で授業を組み立てよ、学習に対する意欲があれば結果はどうでもいいと教育されながら、大学受験では、定型的な易しいことを少しでも間違わないようにというセンター試験を受けなければならないわけです。
 自由な発想は標準的な思考が出来てからでなければ、ただの夢想で現実的ではありません。また、ある程度基礎が出来た後で型に填めようとすれば、自由な発想ができなくなります。そういう意味で今の学生諸君は、教育制度の犠牲者だと言えなくもありません。それでも、人生は一度だけです。やり直すわけにはいきません。今できることは、(自分にとって)正しい向きに向きを変え、頑張って、自分の人生を作っていくことです。今こそ、自分でものを考えなければならないのです。
 世の中の人と同じであっていいのなら、本屋に行って、大勢の人が買っている本や雑誌を買えばいいのです。しかし、過去にも未来にもない現在ここにいる自分が本当に自分らしくありたい。また自分がいてもいなくても世界に何の変化も影響もないということが嫌だ、そう思うなら、そういう自分を自分で作らなければなりません。
 本来、大学はそういう人のための自分探しの場なのです。実態はどうあれ、学生を迎える大学は、大学にいる間に学生を何らかの専門家にしなければならないと考えているし、それが可能なカリキュラムを提供しようとしているのです。受け手の変化により、目標が達成できそうにないという現実に(講義室や試験などで)気づかされるとき、学生は本を読まない、モノを考えないという愚痴が出てくるのです。
 他人はどうであれ、自分だけは違うと思っている学生諸君、これが教官の思いこみに過ぎないことを証明して見てください。そのためには、借り物でない自分自身の考え方、物事が起きたときの対処の仕方、技術、能力、世界観... そういったものを作らなければなりません。1つ1つの講義は単なる知識の受け売りに感じるかもしれませんが、全体としてのカリキュラムはそのことのために考えられているのです。
 不幸にして、これまでの教育によって、この種のことがあまり得意でなくなっている学生諸君がカリキュラム通りに真面目に勉強しても、なかなか自信もつかないかもしれません。そのためには、真面目にというより、目的意識を持って勉強する必要があります。そのためには、自分で、獲得する知識や技術を選択する必要があります。
 そんなことを言われても、どうしたらいいのか分からない、誰に訊けばいいのかわからない、どこを探せばいいか分からない、と思うかもしれません。
 そうです、そういう人のために大学の図書館があるのです。最先端の学問技術は、入学したての君たちの手の届くところにはありません。そのために勉強しに大学へ来たのですから。しかし、今までの君たちとその専門知識との間の、いわばミッシング・リンクが図書館にはあります。見つからないと思ったら、相談に乗ってくれる人も図書館にはいます。本の名前が分からなければ探しようがないと思うときは、インターネットで検索するといろんな情報が得られます(これも図書館で使えます)。それを入り口に自分の進むべき方向を探してください。自分探しのために、図書館に寄ってみて下さい。
 最後に、理科系、特に数学系の(日本語の)本なら、僕のホームページの「ほんの、本のリスト」(http://math1.edu.mie-u.ac.jp/~kanie/book.htm)が役に立つかもしれません。
(かにえ・ゆきひろ)

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