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全学的予算措置を受けて附属図書館が提供している欧文引用文献データベースのWeb of Scienceは、教育・研究の場で積極的に活用され、平成14年度は年間約35,000回のアクセスがありました。
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医学部 中井 桂司
インターネットの急速な普及にみられる、昨今の情報技術の進歩は、我々の様々な社会機能に広範囲に大きな影響を及ぼし、医療サービスもその例外ではなく、様々な新しい概念とそれに基づく関係者の行動様式の変化がもたらされてきている状況にある。本稿では、医療サービスの提供におけるその新しい概念としてのEvidence-based Medicine(EBM)を紹介してみたい。
EBMという言葉を初めて使ったのは、1991年、カナダのMcMaster大学のGuyattで、臨床疫学や生物統計学が大きく進展し、症例報告・研究の中に量的情報を加味した医学研究つまり臨床研究の成果が蓄積されてきていることから、それらの成果を臨床上の問題解決における根拠(Evidence)として積極的に利用するべきという考えである。EBMとは、”個々の患者症例のマネージメントにおいて、現在の臨床医学研究から得られる最善のEvidenceを、良心的にそして思慮深く利用して、最善の転帰をもたらすこと”(Sackettら)、という行動科学的な概念を表現したものである。 Evidenceのレベルを評価する必要があることから、米国の保健政策研究局(Agency for Health Care Policy and Research: AHCPR)は、質の高いEvidenceと呼べるものは、大規模ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)やそれらを統合したメタ分析(Meta-analysis)などの転帰研究(Outcome Research)の成果であるとしている。
臨床上の問題解決のために行われるEBMにおいて、情報の検索にかかる時間が短いことも重要な要素で、そのために、情報機器の利用が不可欠であり、種々のデータベースが整備されてきている。 New England Journal of Medicine誌の編集委員長であったKassirerは、医師は情報機器や情報ネットワークを積極的に利用すべきと提言し、MEDLINE文献データベースの活用が必須と述べている。と同時に、質の高い総合医学雑誌を定期購読することにより、重要な医療情報に定期的に触れていくことも重要とも述べている。 ![]() Index Medicusの年次別重量の変化
MEDLINEは、アメリカ医学図書館(National Library of Medicine:NLM)が運営している医学文献データベースで、1879年に創刊されたIndex Medicusが母体である。1997年には、インターネットに接続・無料開放され、Webから利用でき、PubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/)と名付けられている。もともと、生物学・基礎医学研究の文献データベースで、その使い勝手も独特のシソーラス体系(Medical Subject Headings:MeSH)であるが、NLMでは、RCTやMeta-Analysisなど、論文の種類・研究デザインについての種別を追加登録することとし、さらに既登録データについても1985年まで遡って再登録を行うことで、Evidence検索に有用なデータベースに生まれ変わってきている。 ![]() PubMed(Advanced Search)における論文の種類の選択
The Cochrane Libraryは、包括的な国際臨床試験登録制度の必要性を唱えた英国の疫学者のArchie Cochraneにちなんで名付けられた有料のCD-ROMデータベースで、世界中のRCTを中心にした臨床試験を、系統的に収集、すでに26万件を越える登録データを持ち、これらのデータベースをもとにして、最終的には、専門家による評価をつけて簡潔にまとめられている。このデータベースの特徴は、論文発表されなかった臨床研究についても登録されており、PubMedでは検索されないRCTデータが検索されることも多い。
アメリカ内科学会の抄読会雑誌ACP Journal Clubを創刊したBrian Haynesは、質の高い総合医学雑誌・内科雑誌だけでも、計20誌以上になり、日常の多忙な臨床業務の中でこれら大量の論文を読むことは、事実上不可能との考えの下、Evidenceとなる論文を要約して提供するACP Journal Club誌を創刊した。この雑誌は、質の高いEvidenceを臨床現場へ供給するという観点から編集されており、主要な臨床医学雑誌に掲載されたRCTを中心としたEvidenceについて簡潔にまとめ、専門家によるコメントがつけられている。1995年に、英国医師会が同様に刊行しているEvidence Based Medicine誌とまとめられ、Best Evidenceとして、CD-ROM版とインターネットからも利用可能である。 さらに包括的なEBMデータベースとしてのUpToDateは、米国の主要な学会と共同で編集され、CD-ROMとWebサイト(http://www.uptodate.com/)が利用できるが、表、図、写真も豊富に提供され、量的にも、通常の紙の教科書を越え、MEDLINEの引用文献も10万点含まれ、Abstractも収載されている。 ![]() UpToDateのWebページ これらのデータベースは、一部、有料制のものを除いて、三重大学附属図書館または医学部図書館からも利用できる。
高度情報化社会における専門家(Professional)としての医師は、患者の味方としての情報提供をすることが責務となり、そのような観点で行動できる医師を養成することが時代の要請であると考えられる。このような時代要請に応えていくためには、情報化社会となっても、知識のデータベースとしての図書館が不可欠であり、そのしめる位置と役割はとても重要になっていると考える。 |