経済学を学んでみよう!

教育学部  川端 康


 「日本はいま、グローバル市場で他国と競争を繰り広げている。この国際競争では、アメリカの勝ちは日本の負けとなる。外国との競争に勝つためにも、日本は生産性を向上させ、国際競争力を高めなければならない。」

 「中国などの低賃金国からの輸入が増えることによって、日本の労働者は失業や賃金下落という大きな被害を受けている。」

  このような主張を正しいと考えるならば、ポール・クルーグマン/山岡洋一訳『クルーグマンの良い経済学悪い経済学』(日本経済新聞社)(Paul Krugman, Pop Internationalism, The MIT Press)を是非読んで欲しい。現代の代表的な国際経済学者であるポール・クルーグマンは、この本のなかで、こうした主張がいかに誤っているかを説明している。

 第1章の「競争力という危険な幻想」、第5章の「貿易をめぐる衝突の幻想」、第6章「アメリカの競争力の神話と現実」、第8章「大学生が貿易について学ばなければならない常識」などで示されているように、貿易とは国と国との間の勝つか負けるかの競争ではないのである。貿易とは、お互いに利益をもたらす交換なのである。貿易相手国とくらべて、すべての産業で生産性が劣っている国であっても、生産性の差がもっとも少ない製品(「比較優位」にある製品)を輸出することになり、貿易から利益を得ることができるのだ。したがって、国について「競争力」という言葉を使うのは、意味がないのであり、誤解を招くため危険でもある。

  第3章の「貿易、雇用、賃金」、第4章の「第三世界の成長は第一世界の繁栄を脅かすか」においては、途上国の経済発展は先進国にとって脅威になっているという見方が、いかに根拠のないものであるかを指摘している。途上国で生産性が上昇すれば、途上国で賃金が上昇するだけであり、途上国の成長は先進国にほとんど影響を与えていないのだ。

 第11章は、話題になった「アジアの奇跡という幻想」と題する論文が元になっている。世界中の人々がアジアの奇跡的な成長に賞賛を惜しまないときに、アジア諸国は労働や資本の投入の増加によって成長してきたので、技術進歩を伴わないアジアの経済成長はいずれ止まってしまうであろうと、クルーグマンは断言したのである。

 世の中にはびこる俗説にだまされずに、自分の頭で経済問題について考える力をつけるためにも、経済学を学んでみよう。

(かわばた・やすし)

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(本文中の『クルーグマンの良い経済学悪い経済学』および上記の関連図書は、すべて開架図書のコーナーにあります)


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