<<図書館の地域貢献事業の紹介>>

三重県地域と連携した地震防災の取組み

大学院工学研究科助教授・三重大学災害対策プロジェクト室 川口 淳


 地球上で発生する巨大地震の約20%が、日本列島で発生していることをご存知ですか?我々日本人は、昔から地震と共にこの国に暮らしてきたのです。記憶に新しいところでは、1995年兵庫県南部地震による阪神淡路大震災があります。死者6,000名を越える未曾有の大震災は我々に一体何を教訓として残したのでしょうか?また、この地方では、地震三兄弟と呼ばれる太平洋にあるトラフ(海溝)を震源とする海洋型巨大地震の発生が危惧されています。それらは東からそれぞれ「東海地震」、「東南海地震」および「南海地震」と呼ばれ、発生前から名前が決まっている特別な地震です。これらの地震が特別扱いされているのは、ある程度の周期性を持って発生していることや、トラフ近傍の海底や地上の動きをモニタリングすることで予知の可能性があること、またこの地域は三大都市圏を含む日本の大動脈であるためその防災対策が極めて重要であるからです。政府は、内閣府の中央防災会議にこれらの地震に関する特別調査会を設け、予知のための研究や法整備等を積極的に推し進めています。

 こうした背景のもと、三重大学では平成15年度に文部科学省の地域貢献特別支援事業の予算措置を受け、その事業の一環として同年12月「三重大学災害対策プロジェクト室(略称:DMPO)」を設置し、三重大学における防災体制の確立、三重大学の防災関連の教育・研究資源の三重県地域への還元、および三重大学の防災関連の教育・研究の推進を目的として活動を開始しました。初年度は、主に三重県地域振興部(現防災危機管理局)と連携して、三重県の防災関連施策策定への協力や防災関連の共同研究を、学内では公募の研究プロジェクトへの補助や防災関連講義の開講を行ない、地域向けには附属図書館と連携し、「東南海・南海地震シンポジウム」を開催しました。


図は中央防災会議による東海・東南海・南海地震同時発生を想定した場合の予測深度分布。


 「東南海・南海地震シンポジウム」は県民の防災意識啓発を目的として、三重大学附属図書館所蔵の防災関連資料(江戸時代の鯰絵や書籍)の展示、三重県、神戸大学、四日市市および三重大学の講師陣による一般市民向けの講座、さらに講師をパネリストとしたパネルディスカッションを行いました。防災は、行政が行なう「公助」、市民個人が自分を守る「自助」、さらに地域のコミュニティで助け合う「共助」による活動が三位一体となってはじめて大きな効果が発揮されるもので、そこに地球物理学、工学、人文科学、医学等の多岐にわたる専門知識の助けが必要となります、そういう視点から、このシンポジウムは、多分野の講師から様々な意見を聞くことが出来る絶好の機会となり、市民の皆さんからも活発な質問や意見が出されました。平成15年度は津市(アスト津内アストホール)と四日市市(四日市市勤労者総合福祉センター)で2回開催し、会場に入り切れないほどたくさんの市民の皆さんが詰めかけました。平成16年度は2005年3月19日(土)に鳥羽市で開催予定です。

 また、本年度は、人文学部主催の「人文学部フォーラムin伊賀」において、附属図書館とDMPOが協力して、前述の「東南海・南海地震シンポジウム」における展示資料の一部と、三重県と協力して作成した啓発コンテンツ(耐震構造実験装置)等の展示と、図書・情報部長の木下氏とDMPOの川口が講演をさせていただきました。当初30名程度の参加が見込まれていましたが、こちらも予想をはるかに上回る70名ほどの市民の皆さんが詰めかけられ、地震に対する関心の高さが伺われました。これらのシンポジウムやフォーラムは全国でも珍しい附属図書館のリソースを積極的に活用した取組みとして、文部科学省のwebサイトでも取り上げられ、地域圏大学と地域の関わり方の一つの方法を示すことが出来たと考えています。

 私たちが日本に住んでいる以上、地震は避けられません。その地震による被害を最小限に食い止めるため、三重大学の知識と知恵がこの地域の安全安心の暮らしに必要とされています。 DMPOは、三重大学の全学部および附属図書館等と協力し、三重県地域と一丸となって、災害に強い「まちづくり」と「ひとづくり」に貢献出来る活動を多数推進しています。おりしも、9月5日に紀伊半島南東沖を震源とする強い揺れを伴う地震が発生しました。この地震による被害は比較的少なかったですが、これをきっかけとして皆さんも研究室のメンバーやご家族などと一緒に巨大地震発生時の対応について考えてみてください。それが被害を少なくする防災への大切な第一歩です。

(かわぐち・じゅん)

【解説】
 附属図書館では、地域貢献事業の一環として、三重大学災害対策プロジェクト室との共催で、地震に関するシンポジウムを継続的に開催しています。今回は、いつもシンポジウムでお世話になっている川口先生から活動を紹介する原稿をいただきました。
(附属図書館)
平成16年8月20日開催の「人文学部フォーラム in 伊賀」の様子



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