三重大学人文学部フォーラム in 東紀州 2002:要旨

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三重大学人文学部フォーラム in 東紀州 2002:要旨

第1回要旨
雇用・就業から地域を考える

鹿嶋 洋

現代日本では企業のリストラの進行や失業率の増大等、人々の仕事や働き方に関する問題が関心を集めています。雇用は一人一人の問題であると同時に、地域の 問題でもあります。雇用・労働のあり方の変化は、地域にどのような影響を与えるのでしょうか。また今後の地域づくりを考える上で、雇用・労働をいかに捉え ていけばよいのでしょうか。今回は、こうした労働と地域との関わりを、地域的な状況の違いに着目して考えます。とりわけ、地域経済を担ってきた産業がどの ようにして労働力を得てきたか、リストラや非正規雇用の拡大などの最近の動きが各地域にどのような影響を与えるか、という点から話題を提供します。また、 地域活性化の観点から地域として雇用をどう捉えていくべきかを議論したいと思います。なお当日は紀伊長島町ないしは東紀州地域に即して、地域の雇用・就業 問題について意見を交わしたいと思います。

 

第2回要旨
住まいと地域性
―わが国の住宅はいかに多様でかつ特殊か-

高井宏之

自分は普通の住宅に住んでいる。そう思われている方も多いでしょう。しかし、住宅はそれぞれの地域に固有の自然環境、生活文化・意識、そしてその置かれた 時代の影響を強く受けています。特にわが国は、南北に長い国土、新しい生活文化にいち早く興味を示す国民性がゆえに、その姿は実に多様です。前半ではその 様相について解説します。

後半は海外(東南アジア)のマンションに目を転じます。マンションは全世界に見られる住宅形式ですが、よく見るとわが国には見られない不思議な設計や生活 場面に出くわします。民族による生活文化の違いもありますが、その国の社会構造や共有されている「常識」がどうやら異なっていること、そして逆にわが国の 住宅がいかに特殊であるかに思い至ります。

 

 

第3回要旨
中学英語で考えることばと文化

宇納進一

夫々の民族が持つ言語にはその民族の文化が反映されている、とよく耳にはしますが、いざ具体的に論じようとすると、何をどう語ればよいのか、案外、途方に くれます。『"Gentleman" を「紳士」と訳したところで、英国人にとってそれが意味するところは伝わらない』とか、『「わび、さび」は英語に訳しようが無い』等々の問題を論じるには 確かに相当な研究や準備が必要そうです。でも、それを言うなら、実は、"I am a boy."だって"This is a pen."だって日本語にピッタリと訳すことは困難なのです。そして、こういった例なら、イギリス貴族階級の歴史や茶の湯の伝統の研究などに乗り出すこと なく、何か論じられるかもしれません。英語と日本語の違いを少し反省してみるだけで、その背後には違った世界があるということがかなり具体的に見えてきま す。また、それらを通して、「その本性からして、言語は文化たらざるを得ない」ということも見えてくると思います。

 

第4回要旨
農を通しての豊かな地域づくり
-”農”の恵みの意味を考える-

大原興太郎

一九八五年頃から急速に進んだ国際化の波によって、日本農業の衰退傾向が加速化され、一般的には農村地域の過疎化が進みました。しかしこの中で、世の中の 流れを的確に把握し、さまざまな工夫によって農業を発展させ、地域づくりを進めている地域があります。今がんばっている地域や農村は、いずれも消費者ニー ズを的確に把握し、本物、安心、新鮮、味、価格の面で満足を与える食や田舎の良さの提供によって、売上高、働き手(従業員)を伸ばし、生き生きとした農村 地域を作り上げてきました。そこでは「農」と「食」と「地域」の一体化、すなわち、生産、加工、販売、交流、飲食、サービス、流通などの各事業を一定のコ ンセプトの下に一貫性を持って取り組んでいます。私たちが楽しく知恵を出し、地域と農に誇りをもって生きていけるヒントを米沢郷や馬路村などの先進事例を 通して考えてみましょう。

 

 

第5回要旨
離れて暮らす家族の絆
-都会に住む他出子との交流実態-

石阪督規

地方、なかでも過疎地といわれている町や村に訪れるたびに思うことがあります。それは、若い人があまりにも少なくなってしまったこと。そして、そこでは例 外なく高齢化が進んでいて、高齢者だけの家族や高齢単身者も数多く見られるということです。都会へ飛び出して行った若者と残された老親たち、離れて暮らす この両者は、どのような「絆」で結ばれているのでしょうか。

都会へ出て就職、結婚し、そこで新しい家族を形成している子どもたちと、地方に残って生活する親たちとの間には、「電話のやりとり」から「農作業の手伝 い」そして「介護支援」にいたるまで、さまざまなかたちの相互扶助・支援関係が成り立っているのが現状です。「家族」という枠組みが、もはや「同居」とい う枠組みをこえて維持されているこの時代に、離れて住む親と子の関係は果たしてどうなっているのか。調査データをもとに、両者の交流実態をリポートしま す。

 

第6回要旨
市民が動かすこれからの行政

樹神 成

人が生きていくには、働いて、所得を得なければなりません。結婚して、家族ができれば、家計を支えることも必要です。しかし、それだけでは、人は生きてい けません。個人の所得や家族の協力だけでは解決できない問題がたくさんあります。水を飲む、歩くための道をつくる、きれいな水と空を守るといったことです ら、個人と家族の力の範囲をこえます。仕事に就こうと思ってもそのための知識と技術を理解する教育が必要です。仕事に就く機会を増やそうと思えば、みんな の知恵を出しあう必要があります。こうした問題は、これまでどのように解決されてきたのでしょうか。そして、これからどのように解決していったらよいので しょうか。そのためのひとつの仕組みとして「市民が動かすこれからの行政」を考えてみたいと思います。

 

 

長島高校出前講義
大学の模擬授業:ことばを学ぶ

友永輝比古

長島校の生徒の皆さん、今日は皆さんは大学の新1年生です。この授業の前半は、大学で学ぶドイツ語の第1日目の授業です。ドイツ語はローマ字を読むように 読めば結構。和訳は皆さんの今の教養と旺盛な空想力を生かせば、一つや二つ単語が分らなくても、大丈夫。文法は英語と違うルールを2~3つ覚えれば、1年 後には辞書さえあれば軽い読み物は何とか読めます。英語の知識があれば、ドイツ語の学習は楽勝です。 授業の後半は、ことば一般の話しとして、「なぜこと ばを学ぶのか」がテーマです。ここではドイツの戯曲作家ブレヒト、落語家の桂米朝、劇団四季の浅利慶太代表、作家の曽野綾子のことば、さらに映画『奇跡の 人』、『荒野の七人』からのことばを例にして、「ことばを学ぶことの意味」を探ります。その動機は、今の社会を支えている大人よりも1ミリでも2ミリでも 賢い大人になって欲しい、と願うところにあります。

 

尾鷲高校出前講義
季節の中の文学

廣岡義隆

日本は四季の展開が明確に現れる国であり、その季節の移り変わりの中で、文学作品は形作られます。出前講義では、古典文学の中でも私の専門である『萬葉集』を中心とした和歌文学を対象素材として、古代人の時間感覚と季節感の発達の様を見て行きます。

まず時の観念の発達の様を見ます。一日の始まりは夜と考えられ、夜から朝へ、朝から昼へという展開は民俗学が教えるところですが、時の観念そのものが、現 在のような線状性をなすものとは考えられてはいず、円環状の時観念の中に古代はあったと考えられています。それが萬葉の初期頃から徐々に線状性をなす時観 念が見られるようになります。そうした時観念の表現を山部赤人の長歌作品などを取り上げて見てみます。

ついで季節の表現について、古層の推移的季節感と暦を受容した後の新しい暦日的季節感による作品を対比的に見ることで、文化の中の文学表現について考えます。

 

 

木本高校出前講義
文化の法則を探ろう

中川 正

私たちの身のまわりには、いろいろな法則があふれています。「エレベーターに乗るとき上を見てしまう法則」、「傘を取られたら他人の傘をとってもよいと思 う法則」、「電車の中のオバサンは金色の装飾をつけている法則」、「オジサンたちはズボンにシャツを入れる法則」、「『笑点』大喜利では最初に答えた人が 座布団をもらえる法則」など、数え上げればキリがありません。このような「文化」の法則を発見し、なぜそのような法則が生まれるかを説明し、その法則をど のように実生活に生かすことができるかを考えていけば、立派な社会科学になるのです。本を読んで暗記をするだけが学問ではありません。テレビ、マンガ、音 楽、スポーツを楽しみながらも、そこに浮かんでくるさまざまな疑問をまじめに考えることが、オリジナリティあふれる学問追求の第一歩となるのです。