三重大学人文学部フォーラム in 東紀州 2004:要旨

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1回要旨
熊野灘の海民たち

山中 章

熊野灘の歴史は一万三千年近く前の縄文時代草創期にさかのぼります。以来縄文時代一万年余を通じて、複雑な地形の浦々や海辺の細々とした場所から、海民た ちの生活址が発見されます。中でも海民たちが活発に活動したのは今から五千年ほど昔のことです。東海地方はもちろん、瀬戸内海東部や関東地方との交流の跡 を土器の様々な特徴の中に見いだすことができます。特に興味深いのは、紋様や技術が、模倣ではなくそのまま取り入れられている点です。"荒波を超えて訪れ た海民たちが、曽根に暮らす女性たちの作る土器にその痕跡を残し、再び次の浦へと旅立つ。"こんな光景を空想させてくれるほど各地の海民の足跡が様々な日 常の中に残されています。本格的な考古学の手が加えられて半世紀を迎えようとする尾鷲市曽根遺跡を始め、その後も釜ヶ平遺跡、向井遺跡などと明らかなにな る熊野灘の縄文研究の成果を通して、海民たちの豊かな交流史を垣間見ることにします。


第2回要旨
魚の恵みをいつまでも
-水産資源管理のはなし-

原田泰志

海から魚の恵みをいただき続けるためには、上手にとり、上手にまもり、上手に増やす、資源管理が必要です。でも、水産資源には、自分がとらないと人のもの になってしまう「無主物性」、はげしく増えたり減ったりする「変動性」、いつまでも近くにいるかどうかわからない「移動性」、実際どれだけいるのか、また 増えるのか減るのか、正確にわからない「不確実性」など、管理をむつかしくする性質がいくつもあります。また、管理は人を通じてしかできませんから、生き 物や環境のことだけでなく人のこともわからないとうまくいきません。自然保護とのかねあいも考えないといけません。管理の方法もいろいろありえます。この ような特徴のある水産資源管理の基本的な考え方や解決すべき問題を、尾鷲の事例もひきつつ紹介します。


第3回要旨
食糧の自給と環境保全

森 久綱

日本の食糧自給率はカロリーベースで40%程度しかありません。これは、先進諸国のなかでもっとも低い水準で、将来にわたって食糧を安定的に確保できるの かという直接的な問題の原因となっているだけではなく、食糧の安全性を確保できるのかという間接的な問題の原因ともなっています。ところで、食糧を輸入に 依存する一方で、大量の食品廃棄物(食べ残しや調理くず等)を排出していること、加えてそれらが環境汚染の原因の一つとなっていることから、近年では排出 抑制とリサイクル利用が進められています。生ゴミの肥料利用、飼料利用がその一例です。食糧自給率の向上と食品廃棄物の発生抑制という二つの目標をもった 最近の取り組みが一定の成果をあげていることは事実です。しかしながら、その取り組みで十分なのでしょうか。また問題はないのでしょうか。ここでは、この 問題について考えていきたいと思います。


第4回要旨
尾鷲の宗教的風景
―グローバルな視点から―

中川 正

神社、仏教寺院、山の神、庚申塚、地蔵、観音、墓地・・・。尾鷲には、多様な宗教的な要素が、風景に溶け込んでいます。そして、その宗教景観を核として、 ヤーヤ祭りから八幡祭り、山の神祭り、庚申を祭る小さな集まりまで、様ざまな行事が繰り広げられてきました。このような宗教的風景は、果たして「当たり 前」のものなのでしょうか。人口60億ともいわれる世界の中で、20億はキリスト教徒、10億あまりはイスラーム、10億近くはヒンドゥーです。このよう な宗教勢力がそれぞれの個性を強烈に主張しながら、21世紀を動かしています。宗教は単なる伝統ではなく、新たな意味とパワーを加えながら絶えず景観を作 り変えています。そのような世界の宗教景観のダイナミズムを概観しながら、あらためて尾鷲の宗教景観を見直しましょう。隠れていた現代的な意味が浮かび上 がってくるかもしれません。


第5回要旨
家庭で出来る温熱看護-心も温まる

野口 孝

古代より、その土地に根ざした環境の中で語り続けられてきた治療法は、病める人々に愛を込めて必死で癒そうとした熱い思いと共に、物理療法として体を温め ること(温熱看護)が必ず行われていました。本フォーラムでは、「お風呂上がりの冷たいビールが旨いのは何でだろう?」、「病気になると熱が出るのは何で だろう?」などを共通の疑問として皆様と考えたいと思います。そこで次の二点をお示しします。(1)一般に温湯を浴び暖かくなると開放感が増し、その後の 冷たいドリンクは高いレベルの癒しになります。(2)この湯温を42℃程に維持して少なくとも5分以上入浴すると、各臓器の機能はより強化されます。講演 内容は以下の如くですが、気楽に語り合えれば幸いです。1)温湿布の効能2)温熱を数分負荷することによるストレス耐性の獲得3)温かい心の触れ合いは病気の気を治す4)24時間のケアはナースの絶大な特権であるからこそ情熱をもって専念して欲しい。


第6回要旨
森林環境からみる三重の自然・人・生活

朴 恵淑

人間を含め自然を破壊する生物は結局滅ぶといった「環境倫理(正義)」に基づき、「自然は誰のものか」について考えます。自然環境としての森は林業という 経済的価値をもつ対象とするだけでなく、人間を含むすべての生き物の生存を可能とさせる基本的な生命基盤を提供する重要な環境となるべきです。森を構成す るすべての要素は自然・人・生活の側面から連係をはかられ、有機的な統一性を持ちます。このような有機的統一体は閉鎖された体系でなく、常に成長し変化す る動的な過程で、活力を持つ解放システムとなります。古代から現在において三重の国の街道(例えば伊勢街道)は、自然や文化的環境を含め、すべてのものが 流れては集まり、集まっては流れる脈でありました。東紀州の森林環境から三重の自然・人・生活を見直し、三重の国に生きた先人の智恵やその脈を閉ざすこと なく、未来に繋げるために今を生きる私達は何をすべきかについて考えます。