三重大学人文学部フォーラム in いなべ 2004:要旨

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第1回要旨
明治文学の光芒 -樋口一葉と斎藤緑雨

尾西康充

今年度から新紙幣に樋口一葉が登場します。彼女は肺結核のために24歳という若さで亡くなりましたが、その短い生涯に「たけくらべ」「にごりえ」「十三 夜」などの珠玉の短編を遺しました。彼女の文学をつらぬくヒューマニズムは、当時東京のスラム街であった下谷竜泉寺町で生活した体験にもとづくものでし た。他方、今年度は斎藤緑雨没後100年に当たります。彼は歯にものを着せぬ表現を使って明治の社会を批評しました。いずれも短編ながら「門三味線」「油 地獄」などの小説や「おぼえ帳」「眼前口頭」などの批評を著しました。明治の世の中になって外国から輸入された新しい価値観を身につけた人びとが、それを よく理解もしていないくせに権威張って発言する愚かさを、江戸文化の造詣の深かった緑雨は痛罵したのでした。一葉と緑雨、両者とも明治の浮薄な世の中で自 己を正し、社会の迷妄を看破した文学者です。本講義では、彼らの文学の意義について話します。

 

第2回要旨
「なぜ、学校へ行き学ぶのか」に答えられるか

岡野 昇

学級崩壊や不登校の増加といった「学びからの逃走」に象徴されるように、現在の日本の学校教育は臨界に達しています。こうした学校病理ともいえる現象は、 子どもたちから私たち大人に向けられた「なぜ、学校へ行き学ぶのか」という根源的な問いとして受け止めることができるのではないでしょうか。すなわち、成 熟型社会に入った日本の学校教育は、これまでのような「いま、勉強しておかないと、後から苦労するよ」「いま、勉強して良い学校へ行かないと良いところへ 就職できないよ」という動機づけでは、子どもたちに通じなくなってきているということです。
教育改革が叫ばれている今、「自立」「主体的」「個性」「かかわり合い」というキーワードを手がかりとしながら、これからの日本の社会における「学校」のあり方と、人間にとって「学ぶ」ということの意味について、問い直してみたいと思います。

 

第3回要旨
教育・子ども・人権

寺川史朗

「教育改革」ということばを最近よく聞きます。でも、何を改革しようとしているのかがあまりよく分かりません。教育は子どもたちの無限の発達可能性をアシ ストするためにあるはずです。そういった方向性をもった教育改革であるならば歓迎すべきでしょうが、現在展開されている教育改革は、果たしてそういった方 向性をもっているのでしょうか。日本国憲法では「教育をうける権利」が明記されています。教育基本法もあります。それを変更して何を作ろうとしているので しょうか。その先にあるのは光でしょうか、影でしょうか。そんなことを考えてみましょう。
現実の政治過程で実現されようとしている「教育」像が、日本国憲法の予定している 「教育」像からなぜかけ離れていこうとしているのか、といった点を中心にお話しをしたいと思います。みなさんの理想の「教育」像も、ぜひご披露下さい。

 

第4回要旨
アメリカ短篇小説の世界
―やさしい英語と翻訳で読む―

野田 明

しばしばアメリカは短篇小説の王国と言われます。歴史の浅いかの国では、その国民文学も19世紀前半に始まったとされるのですが、それはまた短篇小説の歴 史でもあり、世界の文学に冠たる大長編小説を物した作家が同時に短篇の名手でもあったということがアメリカでは珍しくありません。このフォーラムでは日本 でもよく知られた作家、アーネスト・ヘミングウェイ(1899-1961)の初期短篇、その中でも特に短いものを取り上げて詳しく検討します。現代は挙げ てインターネットの時代、とにかく大量の情報を処理することに日々追われがちですが、この夜ばかりは、文庫本にして10頁にも満たない、一見たわいない 「お話」をできる限り丁寧に読んで、そこにどれほど深い意味が込められているか、じっくり考えてみたいと思います。原文も中学程度のやさしい英語で書かれ ていますが、今回はまず翻訳から入り、寡黙な作家が彫琢する言葉の重みに触れることを目指します。

 

第5回要旨
環境ホルモンとその無害化

太田清久

50年前にはCAS(Chemical Abstract Services)に登録されていた化学物質数は約87,000ほどでしたが、その後指数関数的に増加し、現在は約5000万に達しています。このうち環 境省は環境ホルモン物質として67を指定しているにすぎません。
本フォーラムではダイオキシン類などの環境ホルモン物質を簡単に紹介しつつ、その無害化・無毒化技術を概説します。現在実用化、研究および考えられている 無害化・無毒化技術には次の19種類があります。(1)熱分解法、(2)触媒分解法、(3)酸化・還元分解法、(4)溶媒抽出分解法、(5)光分解法、 (6)高圧水・超臨界水分解法、(7)超音波分解法、(8)オゾン分解法、(9)爆薬分解法、(10)電気化学的分解法、(11)アーク放電・スパーク放 電分解法、(12)高周波プラズマ分解法、(13)生物科学的分解法、(14)酵素分解法、(15)排ガスフィルター分解法、(16)高エネルギー放射線 分解法、(17)原子力分解法、(18)メカノケミカル法、および(19)洗浄法。

 

第6回要旨
員弁町の地租改正・伊勢暴動・自由民権運動

西川 洋

現在のいなべ市員弁町地域は、明治初期の地租改正に対して抵抗運動があり、「伊勢暴動(地租改正反対一揆)」も激しく広がった所です。しかも、地租改正へ の反対は、一時的なものではなく、その後も帝国議会開設へ向けて自由民権運動にも継続していった地域です。
一般的には、「伊勢暴動」と自由民権運動とは参加者が重なりませんが、員弁町地域では二つをつなぐものとして地価修正運動がありました。
講座では、まず員弁町地域の地租改正とその後の地価修正運動の特徴を考えます。そのことを通して、「伊勢暴動」と自由民権運動との関連などを明らかにしたいと思います。
1991年刊行の『員弁町史』と他の新史料も併せて紹介し、近代初期の地域の歴史の特色を一緒に考えてみたいと思います。